実用車にもなるヤングタイマーはコレ
パーツが豊富なクルマは旧くても足になる/第10回
ヤングタイマーとは?
ヤングタイマーは、初度登録から15~30年ほど経過しているクルマのことで、一番旧いモノで'80年代後半に発売された国内外の車両といったイメージです。この頃に生産されたクルマといえば、デザイン性の高さや品質のよさをアドバンテージとしていました。いま見てもカッコよく、しかも実用性が高くって安価な点が特徴だといえます。本特集では、ヤングタイマーならではといえるそれらの魅力に着目し、毎月、車 市場 名車館 編集長の筆者(高桑)が気になるヤングタイマーをピックアップ。記事をアップしています。
「ヤングタイマー」を「実用車」として楽しむ際の注意点について
初度登録から15~30年ほど経過しているので、やはり、ヤングタイマーも年々良質なクルマが減ってきています。ショップ側の立場(視点)から申し上げると、販売車両の仕入れが困難な状況になってきているわけです。クルマに詳しくない方の中には、ヤングタイマーを最新の国産車を扱うような気軽な感覚で足として使用し、保管やメンテナンスも疎かにして、わずか数年で廃車にしてしまう心無い人もいます。ヤングタイマーに対する正しい知識とクルマへの愛情があってこそ「パーツが豊富なクルマは旧くても足になる」という記事が成立するので、これからヤングタイマーをゲットしようと思っている方は少しだけ心して購入に臨んでください。
ポルシェ911(996型)とは?
996型は、911シリーズ初の水冷エンジン搭載車として1998年にデビューしました。既述したように、いまでも911シリーズならではのアイデンティティとなっている水平対向6気筒エンジンが水冷化され、新世代に入ったことを声高にアピールするかのように、ポルシェは996型のエクステリアデザインも刷新しました。もちろん、基本的なフォルムこそ911シリーズの伝統に則ってデザインされていましたが、お馴染みの丸型ヘッドランプが廃止され、986型ボクスターと共通となる涙目タイプのモノ(メインビーム、ハイビーム、ポジションランプ、ウインカー、ヘッドランプウォッシャーなどの機能をひとつのケースの中に集約)を採用することになりました。そして、左右に大きく張り出したフェンダーを特徴とする独特のスタイリング(カエルっぽい)ではなく、いかにも空力がよさそうな流麗なボディスタイルを纏い、996型は市場に投入されたのです。
いまでこそ996型と986型ボクスターの部品共用(=コストダウン)をポルシェの英断だったと言うこともできますが、996型のデビュー当初はポルシェ自らが敢行した911ブランドの陳腐化を酷評する声が大勢を占め、数多くの911ファンが最後の空冷911となった993型の魅力を再考するに至ったわけです。そのような流れの中で空冷911神話が完成し、996型が不遇の扱いを受ける要因となりましたが、近年における水冷911人気のひとつの起点となったのが996型であったことは疑う余地がない事実なので、当パートでは996型は不当に低く評価されているが、実は後世に遺すべき名車であるという観点で話を進めていくことにします。
ポルシェのエントリーモデルとして登場した986型ボクスターとヘッドランプをはじめとするさまざまな部品を共用したことで996型の評価が不当に低くなったことは既述したとおりです。ここでもう少しだけ、そちら方向のネガティブな話を記述させていただきます。インテリアにおいても986型ボクスターとの類似性が強くみられるようになり、993型911以上に樹脂製パーツの存在が目立つようにもなりました。そのため、熱心な911フリークから否定的な意見が噴出するに至ったわけです。
エクステリアデザインにおける没個性化やインテリアにおける911らしさの欠如といったことが996型の低評価につながり、現役時代の悪い印象をユーズドカーとなった今でも払拭することができずに996型のユーズドカーは総じて安価にて流通しています。しかし、エンジンの水冷化によってもたらされた扱いやすさや上質な走りは911ビギナーにとって最良のものだといえます。そういったこともあり、実は996型が現在最もコストパフォーマンスが高いユーズド911だと解釈してもいいわけです。
911というスポーツカー界のフラッグシップは、経費削減が求められた時代の産物であっても第一線級のアスリートなのです。
水冷化された水平対向6気筒エンジンの排気量が3.4リッターだった2001年式までのモデルがいわゆる前期型で、排気量が3.6リッターとなった2002年式以降のモデルが後期型となります。
リーズナブルなプライスで販売されている996型のグレードを見ていくと、ティプトロ仕様の2輪駆動カレラが最も多く、4輪駆動のカレラ4を狙うこともできる市況となっています。また、ターボルックとフルタイム4WDシステムを特長とするカレラ4Sも狙える点がポイントです。多様なグレードの中から、自分に合った一台を選び出せるでしょう。
なお、1998~2000年式はインテリアがプラスチッキーですが、2001年式から質感が向上しています。エンジンフードの開閉機構が電磁式になっているのも2001年式からなので、ショップの店頭でしっかり作動するかチェックしてみてください。
ボディカラー別価格傾向はボクスターと同じですが、996型の場合はホワイト、ブラック、シルバーが大半なので、人気がある上記3色とそれ以外の塗装色といった感じで大別でき、人気色と不人気色の間には価格差があるといえます。トランスミッションに関してはティプトロが主流で、僅少となっている6段MT仕様をユーズドカーマーケット内で見つけるのは非常に困難です。MT仕様は流通数が少ないため、プレミア性が高く、ティプトロ仕様のプライスよりも高価です。
996型に搭載された水冷エンジンは丈夫で壊れにくく、空冷ポルシェのようにオイル漏れが付き物といった厄介なものでもありません。オイルのにじみぐらいは発生しますが、すぐさま大きなトラブルにつながるわけではないので、過度のにじみでなければ心配しなくていいでしょう。ということで、購入前にチェックしておきたいポイントは、冷却水が漏れていないか、内外装の使用感が年式相応/走行距離相応かといったことぐらいです。
冷却水の漏れはクーラントのサブタンクが劣化(黄色くなっていたら交換のサイン)することで発生します。圧力がかかった際に漏れ始めることがあるので、エンジンをかけてみて、漏れた冷却水が熱くなった金属部分に触れて焼けるニオイがしたり、フロアに冷却水がポタポタ垂れてきたら要注意です。
また、ハイスピードクルージングを行なった際にフロント部のラジエターコアに物体がヒットし、破損しているケースがあるので、ここも目視でしっかりチェックしておくといいでしょう。
インターミディエイトシャフトの破損およびシリンダーヘッドにクラックが入り、冷却水がエンジン内に浸入するケースについては986型ボクスターと同じように心配し過ぎる必要はないので、ポルシェ博士の理想のひとつが高度なエンジニアリングによって具現化されている996型を気軽にチョイスしてみてほしいです。
平素の足として普通に乗れる点が996型の特長なので、リーズナブルな快速GTカー(ビジネスエクスプレスとして活用してもいいでしょう)として、いまが旬の優等生的な996型を臆することなく使い倒してください。